誰かが侵入??
  まこと夜家に戻り、カギを差し込もうとしたら、いつも縦になっているはずの鍵穴が横になっている!?
「ん?入口のドアが少し開いている。どうして???ま、まさか…泥棒!?」
サーーーッと血の気が引いて 冷や汗が…。部屋の中に誰かいないか耳を澄ましてみる…。人の気配がしないので、音をたてずにしずかーに手が入るだけドアを開け、柱のところにある電気のスイッチを入れた。シーンとしている部屋の中。静かに部屋に足を踏み入れる。文世は危ないから入ってこなくていいよ。もしものことがあったら逃げるんだよと言われたけど、恐る恐るまこの後ろについて行く。ちゃんと閉めていったバルコニーの戸が開け放し…。本当に誰もいないか入口から順番に各部屋を確認した。ランドリー、キッチン、バスルーム、そして2つあるベッドルーム。メインベッドルームにある備え付けのワードローブの中も…。誰もいない。ホッとした。部屋の中は、まったく荒らされた様子はない。
でも、確かに入口のドアは開いていた。…ということは、やっぱり泥棒?

そうだ!貴重品は?…と思いたち、メインベッドルームの戸棚を開けてみた。あぁー!パスポートの入った巾着袋がなーい!!!一度に支払うのは大変だからと、2週間ごとの給料から少しずつ貯めていた家賃も、大事に取っておいた日本円も、みんな その巾着袋の中に入れてあった。命の次ぎに大事なパスポートも取られてしまった。2人の日本の運転免許証も入っていた。それがない!日本人はお金を持っていると思われているオーストラリア…うちは例外だけど。日本人がここに住んでいるということもわかってしまった。パスポートには自分たちの写真も貼ってある。パスポート偽造も多いと聞くし、何か悪いことに使われたらどうしよう…。それと、ウォークマンを入れていた巾着袋が2つともない!日本にいた時 通勤電車の中で英語のテープを聞いて勉強した懐かしのウォークマン。ワイヤレスで、こっちに来て友達に見せたら すごく驚かれた自慢のウォークマン。もう1つは 普通のだけど、2つとも まだ新しかった。まこが こつこつ貯めていた小銭のたくさん入ったビンもない。お札も少し入っていたし、1つ目のビンが一杯になって2つ目のビンも半分くらい貯まっていたのに…それが両方ともない!一杯になったら旅行に行こうかと2人で楽しみにしていたのに。くやしぃーーーい!!! あーあ、やられた!見かけは まったく変わっていない この部屋。でも、確かに誰かが入ったと思うと、ぞーーーっとして、鳥肌が全身に…。やだぁー!なんか薄気味わるーい!
   
初めてのナンバー000
 

とにかく落ち着いて、まずは Police に電話しようということになった。まこより英語が少し達者な私が受話器を取ってダイヤルした…『000』。初めての『000』。「Ambulance or Police ? 」 と聞かれ、「Police, please.」 と答えると、まもなくPolice officerが出た。何と言っていいかわからず、「robbery!robbery!」 と小声で言うと、Police officer が 「ダ・イ・ジョウ・ブ?」と言ってくれた。あれ、日本語?どうして日本人ってわかったのですかと聞いたら、奥さんが日本人だそうで、日本人のアクセントは わかりますと言っていた。あとで名前を聞いておけばよかったと思ったが、その時はそんなことを考える余裕もなく、質問に答えるのが精一杯だった。そして、今から行くけど、指紋を取るかもしれないから何もさわらず、何も動かさずに待っていなさいと言われた。サイレンを鳴らして5分もしないうちに来てくれるのかなと思っていたら、10分、20分、30分たっても誰も来ない。結局、Police officer が来てくれたのは電話をしてから約1時間後。待っている間、なんで泥棒が…?どうしてって…?そんなことばかり考えていた。動揺していたんだろうなあ。

Police officerは部屋の中をひととおり調べた後、麻薬を買うための現金ほしさの犯行か、入口から堂々と入って来る手口、部屋が荒らされていない様子などからプロの仕業かもしれないと言った。それから、盗まれたものを書き出すように言われ、それを提出。報告書を作っておくから 必要なら取りに来なさいと言って帰るそぶり…。えっ?それでおしまい?指紋は取らないの?それだけで犯人を捕まえられるの?と思っている間に 「See you ! Bye ! 」 って。Police officerが帰ってから急に気が抜けちゃったのか、しばらく ボッーとしてしまった。怖くて寝る気にもならなかったけど、夜遅いし 明日いろいろしなくちゃならないことがあるから寝る準備をした。まこが、もし誰かが入って来たら音でわかるようにと台所のイスをドアの前に置き、もしもの時のためにゴルフクラブを枕元にしのばせ とにかくベッドに入った。気が滅入っていたせいか、なかなか眠れなかったけれど。

   
セキュリティーはタダじゃない・・・
 

翌日2人で仕事を休み、不動産屋にその由を報告してカギの交換を頼んだ。カギだけでは不安なので、入口の戸の外にセキュリティードアを付けてほしいと頼んだら、自分で購入して取り付けるのはいいけれど、出て行く時には取るようにと言われた。それでもいいからとサイズを測って いろいろ店を見て回ったが、規定サイズに合わず、どこへ行ってもオーダーメードするしかないと言われた。採寸、見積り、注文、取り付けなどを考えると、時間もお金もかかりそうで結局あきらめてしまった。それから しばらくは家に帰ってくるのが怖くて…。ドアが開いていないかとビクビクしていた。まこは毎日帰りが遅いし、1人でいるのが心細かった。

仕事先で泥棒に入られたことをみんなに話したら、「私もやられたことがある。」 「私は2回入られた。」って。えぇーみんな泥棒に入られたことあるの!?それも私たちのような小さな被害ではなく、電気製品をごっそり持って行かれたとか、宝石を全部持って行かれたとか…。「怖かったんだよぉー!」って言っていた私の声が次第に小さくなって、いつのまにか みんなの泥棒体験話しになっていた。まこも また、2階で寝ている間に1階に泥棒が入って金目のものを盗まれ、置いてあった車のカギで車まで持って行かれた話しや、隣家の息子に泥棒に入られ、まるで引越しを手伝っているように家財道具を持ち出していたので、近所の人は誰も不信に思わず、そのまま持って行かれた話し等を聞いて来た。そして、勝手知ったる泥棒は2度3度と戻ってくるかもしれないとも…。

それと、賃貸に入る場合、前の住人がスペア−キーを持っている可能性があるから、カギを自分で替えて、そこを出る時にもとに戻しておけばいいと聞いて来た。前の住人が泥棒になることだってあるのだからと注意されたらしい。それを聞いて びっくり!日本では そんな心配をしたことなかったから。それから、どうして家財保険に入っていなかったのかと聞かれたけれど、まさか泥棒にあうなんて考えもしなかったし、家財保険のことは全然 知らなかった。もちろん、その時 いろいろ教えてもらって すぐ加入した。でも、パスポート、現金は保険の対象外で、たとえ加入していたとしても保険はおりなかっただろうけど。

   
新しい物件探し
  その後、このアパートを出ようと新しい所を探し始めたけど、アパート探しも楽じゃない。土曜日に早起きして、空き部屋情報の載っている朝刊を買うことから始めなくてはいけない。そして、よさそうな物件を見つけたら 決められた時間に見に行く。open inspection と言われ、たとえ まだ住んでいる人がいても、約1時間 指定された時間に行けば家の中を見ることが出来る。条件がいいと すぐ借り手が決まってしまうから、早めに指定された時間に行かなくてはいけない。でも、平日は仕事をしているので、土曜日に早起きするのは辛かった。なかなか見に行く機会を作れずに1週間、2週間…そして1ヶ月、2ヶ月とあっと言う間に過ぎてしまった。それでも何軒か見て回ったけれど なかなかいい所がなく、せめて部屋の模様替えをして怖い思い出を忘れようとソファーセットを買った。こっちに来て初めての大きな買物で すごくうれしかった。そうこうしている間に 忙しさと 時が解決してくれて、泥棒のことも少しずつ記憶から離れて行った。

比較的治安が良いと言われているオーストラリアですが、空き巣を始め、強盗、車の盗難等 日常茶飯事の出来事です。日本が本当に安全な国だとつくづく思います。泥棒がいる時に帰って来なくて よかったと、それだけが不幸中の幸いだったのかな。そして、自分たちのことは自分たち自身で守らなくてはいけないと教えられた事件でした。大分 高い授業料でしたが…。それと、まこは この国では2度と小銭なんて貯めるものかと誓ったようでした。

そして、泥棒に入られてから1年後、何気なく2人で新聞を見ていた際、家でも見てみようかということになり、新聞を買って興味がてら見るようになりました。そんなある日、近くだったけれど今まで行ったことのなかった所に、内部、外部すべてを全面改装した リフォーム済みのユニットを見つけ、そこを見に行ったことから始まった私たちのハウスハンティング。

その後、憧れのマイホーム購入ということに話しは進みました。この話しはまた紹介したいと思います。お楽しみにー!
   
  2004年4月20日/文世記
   
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